経理担当者必見!新リース会計基準の実務対応を完全ガイド【IFRS第16号との違いも】

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2026年度以降の適用が予定されている「新リース会計基準」について、実務対応に不安を抱える経理担当者の方も多いのではないでしょうか。この新基準の最大のポイントは、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則として「すべてのリースを資産・負債として計上する」ことにあります。本記事では、新基準の概要や適用時期、旧基準からの変更点といった基礎知識から、使用権資産とリース負債を用いた具体的な仕訳例、短期リースや少額リースといった簡便的な取り扱いまで、実務担当者が知りたい情報を網羅的に解説します。さらに、国際基準であるIFRS第16号との違いや財務諸表への影響、導入に向けた準備ステップも詳述。この記事一本で、新リース会計基準への対応に必要な知識と具体的なアクションプランが明確になります。

目次

新リース会計基準とは 概要と導入の背景

2023年5月、企業会計基準委員会(ASBJ)は「リースに関する会計基準(案)」を公表し、日本のリース会計は大きな転換点を迎えました。これまで多くの企業でオフバランス処理されてきたオペレーティング・リースが、原則として資産・負債として計上されることになります。この変更は、企業の財務諸表に重大な影響を与えるため、すべての経理担当者がその概要と背景を正確に理解しておく必要があります。

本章では、新リース会計基準の基本的な考え方、導入の経緯、そしていつから誰が対象になるのかを分かりやすく解説します。

なぜ今リース会計基準が変更されたのか

今回のリース会計基準の変更における最大の理由は、国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」との整合性(コンバージェンス)を図るためです。グローバルに事業展開する企業が増える中、国内外の会計基準が異なると、財務諸表の国際的な比較可能性が損なわれるという問題がありました。

従来の日本の会計基準では、リース取引は「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類されていました。このうち、オペレーティング・リースは賃貸借処理として費用計上するのみで、貸借対照表(BS)には資産も負債も計上されませんでした(オフバランス取引)。

しかし、実態としては長期の支払い義務を伴う契約であるにもかかわらず、それが財務諸表に現れないため、投資家などの利害関係者が企業の財政状態を正確に把握しにくいという課題が指摘されていました。特に、航空会社や小売業など、オペレーティング・リースを多用する業界では、BSに計上されていない巨額のリース債務が存在する可能性があったのです。

このような背景から、企業の財政状態の透明性を高め、投資家にとってより有用な情報を提供することを目的に、原則としてすべてのリースを資産・負債として計上する「単一の会計処理モデル」を採用する国際的な流れに合わせ、日本の会計基準も改正されることになりました。

新リース会計基準の適用時期と対象企業

新しいリース会計基準は、すべての企業に同時に強制適用されるわけではありません。適用開始時期は「原則適用」と「早期適用」に分かれており、対象企業も現時点では大企業が中心となります。自社がいつから対応すべきかを正確に把握しておきましょう。

適用区分適用開始時期
原則適用2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から
早期適用2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から

対象となる企業は、金融商品取引法の適用を受ける上場企業やその連結子会社、会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)です。これら以外の企業(中小企業)については、引き続き従来のリース会計基準を適用することが認められています。ただし、将来的に適用範囲が拡大する可能性も視野に入れ、動向を注視することが重要です。

旧基準からの主な変更点 すべてのリースを資産計上

新リース会計基準における最も重要な変更点は、借手の会計処理において、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別をなくし、原則としてすべてのリースを資産・負債として計上する「単一の会計処理モデル」が採用されたことです。

これにより、これまで費用処理のみであったオペレーティング・リース契約についても、借手は「使用権資産」を資産として、「リース負債」を負債として貸借対照表(BS)に計上(オンバランス)する必要があります。この変更が財務諸表に与える影響は非常に大きく、実務上のインパクトを正しく理解することが不可欠です。

旧基準と新基準の主な違いを以下にまとめます。

項目旧リース会計基準新リース会計基準
リースの分類ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類原則としてすべてのリースを単一モデルで処理(分類なし)
会計処理(借手)
  • ファイナンス・リース:オンバランス(リース資産・リース債務を計上)
  • オペレーティング・リース:オフバランス(支払リース料を費用処理)
原則すべてのリースをオンバランス(使用権資産・リース負債を計上)
損益計算書(PL)への影響
  • ファイナンス・リース:減価償却費と支払利息
  • オペレーティング・リース:支払リース料(通常は定額)
減価償却費と支払利息を計上(費用が前倒しで計上される傾向)
簡便的な取り扱い所有権移転外ファイナンス・リースの一部で賃貸借処理が可能短期リースおよび少額リースについて、簡便的な処理(費用処理)を選択可能

ただし、実務上の負担を考慮し、すべてのリース契約で厳密な資産・負債計上が求められるわけではありません。「短期リース」や「少額リース」に該当する場合には、例外的にオンバランスせず、従来通り費用処理することが認められています。この簡便的な取り扱いについては、後の章で詳しく解説します。

新リース会計基準における借手の会計処理

新リース会計基準における借手の会計処理(図解) 開始日に使用権資産とリース負債を同額で計上し、その後は減価償却費と支払利息・元本返済に分けて処理する3ステップの図解 新リース会計基準 借手の会計処理(3ステップ) STEP 1 開始日: 使用権資産とリース負債を同額で計上 1 使用権資産 4,579,700円 PV(未払リース料, 3%, 5年) リース負債 4,579,700円 PV(未払リース料, 3%, 5年) 同額 オペレーティング・リースも原則オンバランス STEP 2 使用権資産の減価償却(定額法) 2 償却期間: 5年(原則) 減価償却費 = 4,579,700 ÷ 5 = 915,940円/年 915,940円 1年目 915,940円 2年目 915,940円 3年目 915,940円 4年目 915,940円 5年目 STEP 3 リース負債の利息計上と元本返済 3 現金支払 1,000,000円(後払い) 支払利息 137,391円 期首残高 × 3% = 支払利息 リース負債返済 862,609円 期末残高 3,717,091円

新リース会計基準の導入により、特に借手側の会計処理は大きく変わります。旧基準ではオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースも、新基準では原則として資産・負債を計上(オンバランス)する必要があります。ここでは、実務で最も重要となる借手の会計処理について、具体的な仕訳例を交えながら3つのステップで詳しく解説します。

使用権資産とリース負債の基本的な考え方

新リース会計基準における最大のポイントは、原則としてすべてのリース契約について、貸借対照表(BS)に「使用権資産」と「リース負債」を計上する点です。これは、リース契約が実質的に「資産を使用する権利」と「リース料を支払う義務」の交換であるという考え方に基づいています。

具体的には、以下の2つの勘定科目を新たに用いて会計処理を行います。

  • 使用権資産:リース期間にわたって原資産(リース物件)を使用する権利を表す資産です。
  • リース負債:リース期間にわたって支払うべきリース料総額のうち、まだ支払っていない金額を現在価値に割り引いたものです。

この処理により、これまで注記情報でしか把握できなかったオペレーティング・リースの実態が財務諸表に反映され、企業の財政状態をより正確に把握できるようになります。

リース開始日の具体的な仕訳方法

リース期間が開始する日(リース開始日)には、使用権資産とリース負債を同額で計上します。この計上額は、未払リース料総額を一定の割引率で割り引いた「現在価値」を基礎として計算されます。

まず、リース負債の金額を算出します。これは、リース期間中のリース料総額を、借手の追加借入利子率などを用いて現在価値に割り引くことで計算します。次いで、使用権資産の金額を、原則としてリース負債と同額で計上します。もし、リース契約に関連して支払った付随費用(仲介手数料など)があれば、その金額を使用権資産に加算します。

【設例】
リース料:年額100万円(後払い)
リース期間:5年
割引率:3%
付随費用:なし

この場合、リース負債および使用権資産の計上額は、年金現価係数を用いて以下のように計算します。
100万円 × 4.5797(割引率3%、期間5年の年金現価係数) = 4,579,700円

リース開始日の仕訳は以下のようになります。

借方金額貸方金額
使用権資産4,579,700円リース負債4,579,700円

リース開始後の減価償却費と支払利息の計上

リース開始日以降は、決算期ごとに使用権資産の減価償却と、リース負債に係る支払利息の計上が必要になります。これにより、費用が「リース料」という単一の科目ではなく、「減価償却費」と「支払利息」に分けて計上されることになります。

使用権資産の減価償却

使用権資産は、固定資産と同様に減価償却を行います。償却期間は原則としてリース期間となり、定額法で償却するのが一般的です。上記の設例では、リース期間5年で償却します。

減価償却費 = 4,579,700円 ÷ 5年 = 915,940円

リース負債の利息計上と返済

リース負債については、リース料の支払いの都度、元本部分の返済と利息の支払いを区別して処理します。支払利息は、期首のリース負債残高に割引率を乗じて計算します(利息法)。

1年目の支払利息 = 4,579,700円 × 3% = 137,391円
リース負債の返済額 = リース料支払額 1,000,000円 – 支払利息 137,391円 = 862,609円

リース料支払時と決算時の仕訳は以下のようになります。

タイミング借方金額貸方金額
リース料支払時支払利息137,391円現金預金1,000,000円
リース負債862,609円
決算時減価償却費915,940円使用権資産減価償却累計額915,940円

このように、新リース会計基準では、リース取引を金融取引と類似したものと捉え、資産・負債の両建て計上と、それに伴う減価償却費・支払利息の計上が求められます。この処理により、特にリース契約の多い企業では財務諸表に大きな影響が及ぶ可能性があります。

実務負担を軽減する簡便的な取り扱い

実務負担を軽減する簡便的な取り扱い(概念図) リース契約(全て) 短期リース? 12ヶ月以内・購入OPなし 延長等の確実期間を含む はい いいえ 少額リース?(IFRS参考) 新品価額5,000USD以下など 日本基準:明確な免除規定なし はい いいえ 重要性の観点? 例:リース料総額300万円以下 会計方針として明確化・継続適用 はい いいえ 費用処理(賃貸借処理) ・使用権資産・リース負債は計上しない ・支払リース料をリース期間にわたり 規則的に費用化(定額法など) BS計上(通常の取り扱い) 使用権資産・リース負債を計上 適用単位の違い ・短期リース:リース資産の種類ごとに選択適用 ・少額リース(IFRS):個々のリースごとに判断 ・重要性の観点:全社的な会計方針として適用

新リース会計基準では、原則としてすべてのリース契約を使用権資産とリース負債として貸借対照表(BS)に計上する必要があります。しかし、すべてのリース契約に対して厳密な会計処理を行うことは、企業の経理担当者にとって非常に大きな実務負担となり得ます。そこで、この負担を軽減するため、特定の条件を満たすリース契約については、資産計上をせずに従来通りの賃貸借処理(費用処理)を継続できる簡便的な取り扱いが認められています。

この簡便的な取り扱いを適切に活用することで、業務の効率化を図ることが可能です。ここでは、その代表的な方法である「短期リース」と「少額リース」、そして実務上重要となる「重要性の考え方」について詳しく解説します。

短期リースの適用要件と会計処理

短期リースとは、その名の通りリース期間が短いリース契約を指し、以下の要件を満たす場合に適用できます。

適用要件

  • リース開始日において、リース期間が12ヶ月以内であるリース。
  • 購入オプション(割安購入選択権など)が含まれていないこと。

ここでいう「リース期間」とは、単なる契約期間ではなく、借手が延長オプションを行使することが合理的に確実である期間も含まれるため注意が必要です。例えば、契約上は11ヶ月でも、更新することがほぼ確実な場合は短期リースに該当しない可能性があります。

会計処理

短期リースの要件を満たす場合、借手は使用権資産とリース負債を計上する必要がありません。代わりに、旧基準のオペレーティング・リースと同様に、支払うリース料をリース期間にわたって定額法などの規則的な方法で費用として計上します。これにより、資産管理や複雑な計算から解放され、経理業務を大幅に簡素化できます。

なお、この短期リースの適用は、リース資産の種類(例えば「PC・周辺機器」「車両」など)ごとに選択適用することが可能です。

少額リースの適用要件と会計処理

少額リースは、リース対象となる資産そのものの価値が小さいリース契約に関する簡便法です。ただし、日本の新リース会計基準と国際的な基準であるIFRS第16号では取り扱いが異なるため、その違いを正確に理解しておくことが重要です。

IFRS第16号における少額リース

まず参考として、IFRS第16号では、リース対象となる原資産が新品であった場合の価額が5,000米ドル以下など、少額であるリースについて、簡便的な会計処理が認められています。コピー機やPC、オフィス家具などがこれに該当するケースが多くなります。

日本の新リース会計基準における取り扱い

一方で、日本の新リース会計基準(公開草案段階)では、IFRS第16号のような金額基準を明示した少額リースの免除規定は設けられていません。したがって、国際基準をそのまま適用することはできない点に最大限の注意が必要です。日本の会計実務では、金額的な重要性の観点から個別に判断することになります。

会計処理

もしIFRSを適用している、または将来的に少額リースの規定が国内基準に導入された場合、その会計処理は短期リースと同様です。つまり、使用権資産とリース負債を計上せず、支払リース料を費用として処理します。少額リースの適用は、他の簡便法とは異なり、個々のリース契約ごとに判断できるという特徴があります。

重要性を考慮した実務上のポイント

日本の会計基準には、IFRSのような明確な少額リースの規定はありませんが、「重要性の原則」という考え方が存在します。これは、財務諸表の利用者の意思決定に影響を与えないような僅少な項目については、煩雑な会計処理によらず、他の簡便な方法によることを認めるものです。

新リース会計基準の実務においても、この重要性の原則を適用することが考えられます。具体的には、既存の「中小企業の会計に関する指針」などで認められている、リース料総額が300万円以下のリース取引について、賃貸借処理を継続するという実務が参考になります。

この基準を適用すれば、個々のリース契約のリース料総額(解約不能期間のリース料合計額)を算出し、300万円以下であれば資産計上を行わず、支払時に費用処理する、という簡便な運用が可能となります。ただし、これは企業が会計方針として明確に定め、継続的に適用する必要があります。どの程度の金額までを「重要性が乏しい」と判断するかは、企業の規模や事業内容によって異なるため、監査法人や会計専門家と協議の上で慎重に決定することが求められます。

以下に、これまで解説した簡便的な取り扱いのポイントをまとめます。

項目短期リース少額リース(IFRS参考)重要性の観点(300万円基準など)
主な適用要件リース期間が12ヶ月以内原資産の新品価額が少額(例:5,000米ドル以下)リース料総額が僅少(例:300万円以下)
日本の新基準での規定ありなし(明確な規定はない)なし(重要性の原則に基づく実務判断)
会計処理使用権資産・リース負債を計上せず、支払リース料を費用処理(賃貸借処理)
選択の単位リース資産の種類ごと個々のリースごと会計方針として全社的に適用

IFRS第16号と日本の新リース会計基準の相違点

日本の新リース会計基準(公開草案段階)は、国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」を基礎として開発されました。そのため、多くの点で共通していますが、日本の会計実務や商慣行を考慮した結果、いくつかの重要な相違点が存在します。グローバルに事業を展開する企業や、IFRS適用企業との比較を行う際には、これらの差異を正確に理解しておくことが不可欠です。

会計処理モデルの違いを理解する

IFRS第16号と日本の新リース会計基準における最も根本的な違いは、借手の会計処理モデルにあります。IFRS第16号が原則としてすべてのリースに単一の会計処理モデルを適用するのに対し、日本の新基準では、企業の状況に応じて原則的な処理と簡便的な処理の選択適用が認められる見込みです。この違いが、財務諸表に与える影響の度合いを大きく左右します。

具体的には、以下の表のように整理できます。

比較項目IFRS第16号日本の新リース会計基準(案)
会計処理モデル単一モデル
原則としてすべてのリースを使用権資産・リース負債としてオンバランス計上する。
選択適用モデル
原則法(IFRS第16号と同様の処理)と、特定の条件下で適用可能な簡便法(従来の賃貸借処理に類似)から選択できる。
損益計算書(PL)への影響費用は「減価償却費」と「支払利息」に分けて計上される。費用は当初大きく、徐々に減少する(前倒し計上)。【原則法】IFRS第16号と同様。
【簡便法】支払リース料を、リース期間にわたり定額法など規則的な方法で費用計上する。
対象企業IFRS適用企業すべて。上場企業などは原則法の適用が想定されるが、中小企業などの実務負担を考慮し、簡便法の選択も認められる方向で検討されている。

この選択適用の存在により、日本の企業は自社の規模や管理体制、財務戦略に応じて会計処理方法を決定できる柔軟性を持つことになります。ただし、異なる会計処理を選択した企業間での財務諸表の比較可能性が低下する可能性には留意が必要です。

免除規定における差異と注意点

新リース会計基準では、実務上の負担を軽減するため、特定のリース契約について資産計上を不要とする「免除規定」が設けられています。この免除規定は「短期リース」と「少額リース」の2種類があり、IFRS第16号と日本の新基準で基本的な考え方は共通していますが、細かな点で差異や実務上の注意点が存在します。

短期リースの扱い

短期リースとは、リース期間が12ヶ月以内のリースを指します。この定義については、IFRS第16号と日本の新基準の間に実質的な差異はありません。どちらの基準でも、短期リースに該当する場合は、使用権資産とリース負債を計上せず、支払リース料を費用として処理することが認められています。

少額リースの扱い

一方、少額リースについては解釈に注意が必要です。少額リースとは、リース対象となる「原資産」そのものの価値が低いリースを指します。

IFRS第16号では、原資産が新品であった場合の価額が少額(実務上の目安として5,000米ドル以下)であるか否かで判断します。この判断は、企業がリースする資産の合計額ではなく、個々の原資産ごとに行います。例えば、1台30万円のPCを100台リースする場合、1台あたりの価値が少額であるため、この免除規定を適用できる可能性があります。

日本の新基準もこの考え方を踏襲していますが、具体的な金額基準の適用や判断単位について、より実務的な論点が生じる可能性があります。特に、契約書単位で判断するのか、あくまで原資産単位で判断するのかといった点は、自社の会計方針として明確に定めておく必要があります。

比較項目IFRS第16号日本の新リース会計基準(案)
判断基準原資産が新品であった場合の絶対的な価値に基づく。IFRS第16号の考え方を踏襲。
金額の目安5,000米ドル以下が例示されている。具体的な円建ての金額は明示されていないが、IFRSの目安が参考にされる。
注意点企業の規模や性質に関わらず、原資産の価値のみで判断する。適用単位(例:PC1台ごと、コピー機1台ごと)の管理が実務上の課題となる可能性がある。

これらの免除規定を適用するかどうかは企業の会計方針の選択事項です。適用を決定した場合は、対象となるリース契約を正確に把握し、一貫した処理を行うための社内ルールの整備が重要となります。

新リース会計基準が財務諸表に与える影響

新リース会計基準の導入は、単なる会計処理の変更にとどまらず、企業の財務諸表の見え方を根本から変える大きなインパクトを持ちます。特に、これまで貸借対照表(BS)に計上されていなかったオペレーティング・リースが「オンバランス化」されることで、資産と負債が大幅に増加する可能性があります。ここでは、貸借対照表(BS)、損益計算書(PL)、キャッシュフロー計算書(CF)のそれぞれに与える具体的な影響と、それに伴う経営指標の変化について詳しく解説します。

貸借対照表(BS)への影響と資産の増加

新リース会計基準における最も大きな変更点は、これまでオフバランス処理されていたオペレーティング・リースが、原則としてすべて貸借対照表(BS)に計上されることです。これにより、企業の財政状態の透明性が高まる一方で、見た目の財務数値は大きく変動します。

具体的には、リース契約の開始日に、将来のリース料総額を現在価値に割り引いた金額で「使用権資産」を資産の部に、「リース負債」を負債の部にそれぞれ計上します。この結果、総資産と総負債が同額増加することになります。

旧基準(オペレーティング・リース)新リース会計基準
資産計上なし使用権資産を計上(資産増加)
負債計上なしリース負債を計上(負債増加)
純資産影響なし影響なし

特に、本社ビルや店舗、工場設備などをリースで調達している小売業、航空業、運輸業などの企業では、BSが大幅に膨らむことが予想されます。これにより、自己資本比率や負債比率といった財務健全性を示す指標が悪化する可能性があるため、注意が必要です。

損益計算書(PL)への影響と費用の前倒し計上

損益計算書(PL)においても、費用の計上方法が大きく変わります。旧基準では、支払リース料を毎期ほぼ定額で費用処理していましたが、新基準では費用構造が変化します。

新基準では、リース期間にわたり、資産計上した「使用権資産」に対する減価償却費と、「リース負債」に対する支払利息を費用として計上します。支払利息は、リース負債の残高が大きいリース期間の初期に多く発生し、返済が進むにつれて減少していきます。このため、減価償却費(通常は定額)と支払利息の合計額は、リース期間の初期に大きく、後期になるほど小さくなる「費用前倒し」の効果が生じます。

旧基準(オペレーティング・リース)新リース会計基準
費用項目支払リース料(販売費及び一般管理費など)減価償却費(販売費及び一般管理費など)
支払利息(営業外費用)
費用の推移期間中、ほぼ定額期間の初期に大きく、後期に減少
営業利益影響なし支払リース料が減価償却費と支払利息に分解されるため、増加する傾向

また、支払リース料が営業費用である「減価償却費」と営業外費用である「支払利息」に分解されるため、営業利益やEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)は、旧基準に比べて増加する傾向にあります。これは、企業の収益性分析に影響を与える重要なポイントです。

キャッシュフロー計算書と経営指標の変化

新リース会計基準は、キャッシュフロー計算書(CF)の表示区分にも変更をもたらし、各種経営指標にも影響を及ぼします。

キャッシュフロー計算書への影響

旧基準では、オペレーティング・リースのリース料支払額は、全額が「営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)」のマイナスとして計上されていました。しかし、新基準では、リース料の支払いが元本返済部分と利息部分に区分されます。その結果、利息部分は営業CF、元本返済部分は「財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)」のマイナスとして表示されます。(※利息の支払いを財務CFに区分することも認められています)

この変更により、営業CFは増加し、財務CFは減少(マイナスが大きく)するため、キャッシュフローを用いた企業分析を行う際には注意が必要です。

経営指標への影響

BSとPLの変動に伴い、企業の財務状況を評価するための主要な経営指標も変化します。企業は、これらの指標の変化について、株主や金融機関などのステークホルダーへ適切に説明することが求められます。

経営指標主な影響理由
自己資本比率低下する傾向総資産(分母)が増加するため。
負債比率上昇する傾向負債(分子)が増加するため。
ROA(総資産利益率)低下する傾向総資産(分母)が大きく増加するため。
EBITDA増加する傾向支払リース料から支払利息と減価償却費に変わり、計算上、足し戻される金額が増えるため。

このように、新リース会計基準は財務諸表の数値を大きく変動させます。自社の財務状況や経営成績がどのように変化するのかを事前にシミュレーションし、その影響を正確に把握しておくことが極めて重要です。

新リース会計基準導入に向けた準備とステップ

新リース会計基準導入に向けた準備と3ステップ 全社連携で「契約の把握 → 方針決定・試算 → 業務・システム整備」を順に実行 ステップ1 契約の洗い出し 契約管理台帳を整備 リース該当性を判定 必要情報を収集・整理 収集情報(例) 資産/数量/型番 期間・延長/購入等のオプション リース料(固定/変動) 開始日・終了日 契約情報を集約 ステップ2 方針決定・試算 簡便的取扱いの方針(短期・少額) 割引率の算定方法(追加借入利子率等) リース期間の判断基準 影響指標(試算の要点) 使用権資産・リース負債の計算 財務指標の影響を把握 資産総額 自己資本比率 EBITDA 方針を業務へ反映 ステップ3 業務・システム整備 情報収集のフロー整備 会計処理を標準化・マニュアル化 役割分担と承認プロセスを明確化 システム対応 会計/リース管理システムの適合確認 専用システム導入を検討(件数多い場合) Excel運用時はチェック・版管理を徹底 全社連携のポイント 契約書の所在を部門横断で統合し、単一のリポジトリで管理 経理・事業部・法務・ITが定例で進捗・課題を共有(ガバナンス強化) 図の見方 各ボックスがステップ、矢印は実務の流れを示す 契約の洗い出し(情報網羅と品質) 会計方針決定と影響額の試算(説明責任) 業務フロー・システムの整備(内部統制) ポイント: 早期にステップ1の網羅性を確保し、ステップ2で経営指標の変化を見える化、 ステップ3で運用を標準化・システム化することでミスと属人化を防止

新リース会計基準への対応は、一朝一夕に完了するものではありません。経理部門だけでなく、契約を管理する各事業部門との連携も不可欠です。ここでは、実務担当者が着実に準備を進めるための具体的な3つのステップを、やるべきことと注意点を交えて詳しく解説します。

ステップ1 対象となるリース契約の洗い出し

新基準対応の第一歩は、自社に存在するすべてのリース契約を正確に把握することから始まります。これまで費用処理していた賃貸借契約なども対象となるため、すべての賃貸借関連契約を網羅的にリストアップすることが最初の重要な一歩です。契約書が各部署で個別に管理されているケースも多いため、全社的な協力体制を築きましょう。

具体的には、以下の手順で進めます。

  1. 契約管理台帳の整備:社内に存在するリース契約、賃貸借契約、レンタル契約などをすべてリストアップし、管理台帳を作成します。
  2. 契約内容の精査:作成したリストを基に、個々の契約書を確認し、新基準における「リース」の定義に該当するかを判定します。「識別された資産の使用を支配する権利」が移転しているかどうかが重要な判断基準となります。
  3. 必要情報の収集:リースに該当すると判定された契約について、会計処理に必要な情報を収集・整理します。

収集すべき情報の具体例は以下の通りです。これらの情報を一元管理できるフォーマットを準備することが、後のステップを効率化する鍵となります。

項目確認内容主な確認書類
リース対象資産資産の種類、数量、型番など、資産を特定できる情報契約書、仕様書
リース期間契約上のリース期間、解約不能期間、延長オプションや購入オプションの有無と行使の可能性契約書、覚書
リース料毎月の支払額、固定リース料、変動リース料の有無とその算定根拠契約書、請求書
各種オプション契約を延長するオプション、資産を購入するオプション、契約を中途解約するオプションの有無と条件契約書
契約開始日・終了日リース期間の開始日と終了日契約書

ステップ2 会計方針の決定と影響額の試算

対象となるリース契約を洗い出したら、次に自社の状況に合わせて具体的な会計方針を決定します。ここで決定した方針は、今後の会計処理の根幹となるため、慎重な検討が必要です。特に、実務負担を軽減する「簡便的な取扱い」を適用するかどうかは重要な判断ポイントとなります。

会計方針を決定した後、その方針に基づいて財務諸表に与える影響額を試算(シミュレーション)します。影響額の試算は、経営判断や金融機関をはじめとする利害関係者への説明責任を果たす上で不可欠なプロセスです

会計方針の主な決定事項

  • 簡便的な取扱いの適用方針:短期リースや少額リースの免除規定を適用するかどうかを決定します。適用する場合、例えば「少額リース」と判断する具体的な金額基準(例:5,000米ドル相当額以下など)を社内で明確に定めます。
  • リース負債の割引率の算定方法:リース負債の現在価値計算に用いる割引率を決定します。リースの貸手の計算利子率が容易に算定できない場合、企業の追加借入利子率を使用することが一般的です。算定根拠を明確にし、一貫した方法で適用できるように準備します。
  • リース期間の判断方針:延長オプションや解約オプションについて、それらを行使することが「合理的に確実」かどうかの判断基準を定めます。

影響額の試算

決定した会計方針に基づき、各リース契約について使用権資産とリース負債の額を計算し、財務諸表全体への影響をシミュレーションします。これにより、資産総額の増加、自己資本比率の低下、EBITDAの変化など、経営指標への影響を事前に把握できます。この試算結果は、経営層への報告や予算策定の基礎資料としても活用できます。

ステップ3 業務フローとシステムの整備

最後のステップは、決定した会計方針に沿って実務を円滑に遂行するための体制構築です。これには、日々の業務プロセスの見直しと、それを支える会計システムや管理ツールの整備が含まれます。

業務フローの見直しと構築

新リース会計基準の適用により、経理部門の業務は大きく変化します。特に、これまで関与が薄かった契約内容の把握が不可欠となるため、契約を締結・管理する事業部門との連携が極めて重要になります。以下の点を踏まえ、新たな業務フローを構築しましょう。

  • 情報収集のフロー:新規契約時や契約更新・変更時に、リース会計処理に必要な情報を事業部門から経理部門へスムーズに連携する仕組みを確立します。
  • 会計処理のフロー:リース開始時の仕訳、毎月の減価償却費と支払利息の計上、契約変更時の再測定など、各イベントに応じた会計処理プロセスを明確化し、マニュアル等に文書化します。
  • 役割分担の明確化:契約情報の入力、割引率の算定、仕訳の承認など、各プロセスにおける担当者と責任者を明確に定めます。

システムの整備

リース契約の件数や複雑さによっては、Excelなどによる手作業での管理には限界があります。計算ミスや管理漏れのリスクを低減し、内部統制を強化するためにも、システム対応は重要な検討事項です。

  • 既存会計システムの確認:現在使用している会計システムが、新リース会計基準に対応しているかを確認します。対応していない場合は、バージョンアップやオプション機能の追加、改修が可能かベンダーに問い合わせます。
  • リース資産管理システムの導入検討:契約件数が多い場合や管理の複雑さを考慮すると、専用のリース資産管理システムの導入が現実的な選択肢となります。システムを選定する際は、使用権資産・リース負債の計算、減価償却費・支払利息の自動計算、仕訳データの会計システム連携、契約情報の一元管理といった機能が備わっているかを確認しましょう。
  • Excel管理の場合の注意点:契約件数が少なく、当面Excelで管理する場合は、計算式の誤りやデータの破損を防ぐため、複数人によるチェック体制を構築し、ファイルのバージョン管理を徹底するなど、内部統制を意識した運用が求められます。

まとめ

本記事では、経理担当者向けに新リース会計基準の概要から実務対応、IFRS第16号との違いまでを網羅的に解説しました。今回の基準変更の核心は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則としてすべてのリース契約を資産・負債として貸借対照表に計上(オンバランス化)することにあります。これは、国際的な会計基準との整合性を図り、企業の財務実態をより透明性の高い形で利害関係者に開示することが主な目的です。

この変更により、企業の資産と負債がともに増加し、損益計算書上では費用の計上パターンが変わるなど、財務諸表や経営指標に大きな影響が及びます。ただし、実務負担を軽減するため、「短期リース」や「少額リース」といった簡便的な取り扱いも認められています。自社の状況に合わせてこれらの適用を検討することが重要です。

新リース会計基準への円滑な移行には、早期の準備が不可欠です。まずは対象となるリース契約を漏れなく洗い出し、会計方針を決定した上で、業務フローの見直しや会計システムの整備を進める必要があります。本記事で紹介したステップを参考に、計画的に対応を進めていきましょう。

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